風が吹き、雲が流れる

揺れる緑、暖かな日差し


いつか あの雲をつかみたいと、空に腕を伸ばした。

いつか あの鳥たちのように自由に空を羽ばたきたいと、空を見つめた。


いつの間にあの思いは、僕の中から消えてしまったんだろう…?

いつから、現実だけをみるようになってしまったんだろう…?







青空を見上げて…






柔らかな芝生の上に横たわりながら、ぼんやりと空を見上げる。

そっと、風が頬をくすぐり、暖かな日差しに瞼が重くなる。
一瞬、このまま寝てしまおうかとも思うが、そこは耐える。

今日は久しぶりに友人に会う。
待ち合わせはここ。
昔、いつも一緒に遊んだこの川原。
ここは、10年前から何も変わらない。

昭仁は、この町を見てどのような感想を持つだろうか?
昭仁が、大学進学のためにこの町を出て2年と少し。
たったそれだけの時間で、この町もずいぶん変わった。
大きな美術館ができ、その代わりに、僕たちがよく行った古書店が無くなった。
道路も新しく整備され、交通量が増えた。
でも、ここだけが変わっていない。

あのころから何も…。

「結斗!」

名前を呼ばれ、上体を起こしてそちらを見る。
そこには、2年前よりも逞しく、大人びた顔をした友人が立っていた。

「昭仁。久しぶり、元気そうだね」
「ああ、元気元気! って…おまえは眠そうだな」
昭仁は、はぁ…と大げさにため息をついて見せ、結斗の横に腰を下ろす。
ったく、こんないい天気に寝てばっかじゃ勿体ないだろうが」
「いい天気だから眠くなるんだよ」
そう言って結斗は伸びをして、胸いっぱいに川原の空気を吸い込んだ。
昭仁もそれに倣い深呼吸をし、そのまま後ろへと倒れる。

「うあ〜…!! やっぱここは良いよなぁ〜」
うーんと伸びをして、空を見つめる。
「ここだけが、なぁんも変わってない」
結斗はそれに、膝を抱えて頷く。

「…昭仁、見た?」
「ん?」
「森山古書店」
「…ああ、見たよ。無くなったんだな、あそこ」
昭仁は青空を見つめる。
結斗も空へと視線を移す。
「よく行ったよなー、あそこ」
「うん、学校帰りに。あそこのおじさん、いい人だったよねー」
「あ? ……オレはよく怒られたけどな…」
「それは昭仁が本を乱暴に扱うから」
「ハタキ持って追っかけてくんだぞ? すっげー顔で」
「あはは。でも、僕がいつもおじさん抑えてて……大変だったんだから」

二人は顔を見合わせて笑う。
懐かしいあの日を思い出して。
風が、川岸で遊ぶ子供たちの声を運んでくる。

「今でも、こんな所で遊ぶ子供がいるんだな」
「本当だね。ここの風景は、今も変わらない」
「あ〜……何か昔を思い出すなぁ〜……」

10年前、あそこにいたのは自分達だった。
いつも一緒に、4、5人のグループで遊んでいた。
川の中に入ったり、川原で鬼ごっこをしたり…
そんな日々が懐かしい。
もう、決して戻ることはできないあの時代。
でも、それは確かに、思い出として胸に刻み込まれている。
決して忘れることのないあの時代。



「昭仁、ここも無くなるんだって。……全部コンクリにしちゃうらしいよ」



「…そっか」



二人は再び空を見上げる。
あの頃にはもう戻れないけれど、あの頃を取り戻すことはできないけれど、
"そんな時代があった"
という事実は決して無くならない。
どれだけ町が変わろうとも、どれだけ自分達が成長しようとも。



それでも…




「寂しくなるな」





「うん」





二人は空を見上げる。
芝生に身を投げだして。
























風が吹き、雲が流れる

揺れる緑、暖かな日差し


いつか あの雲をつかみたいと、空に腕を伸ばした。

いつか あの鳥たちのように自由に空を羽ばたきたいと、空を見つめた。


あの思いは、消えてしまったわけじゃない。

あの思いは、今も僕の心の奥に、大切にしまってある。






決して無くなることのない、大切な思い出として―――――